東日本大震災でも有効であった防災対策として、まず,耐震設計・施工,耐震補強,設備の免震化や耐震固定などがあげられよう.これらは,BCPの対策としても位置付けられるものである.
大震災では,地震動の大きさのわりに建築物や土木構造物の被害が従来の大地震に比べて少ないとの印象があるが,その理由として,建物被害をもたらす周期の地震動が強くなかったという特性に加え,やはり耐震性確保の効果が大きかった.
東日本大震災では津波被害が甚大であった.被災地の状況からみて,津波対策が十分であったとは言い難い.さらに,電力を使う設備や通信回線を使う設備類は,海水に浸かると復旧困難な被害を受けることから,設備が汎用品で入替えが容易な場合を除き,その事業所の復旧には少なくとも相当の時間を要することとなる.
企業の活動には,物流に必要な道路,港湾等のインフラや,電気,通信,水,ガス等のライフラインが欠かせない.これらが途絶せず,あるいは早急に回復することが,企業の事業継続に不可欠である.
東日本大震災では,高速道路や新幹線にこれまでに耐震化を進めた効果が出たとみられ,津波被害が大きかった地域内を除き,比較的早期に復旧したと評価できよう.特に,東北自動車道の早期復旧の効果は大きかった.ただし,港湾の被害は総じて極めて甚大であり,半年を経ても港湾機能には大幅な制約が残っているが,耐震岸壁の効果は見られた.
さらに,物流面では,復旧活動に必要な軽油・ガソリン等の燃料の深刻な不足が被災地で続いた.この燃料不足は,沿岸部の石油プラントの多くが津波,地震動,地盤の液状化の被害により操業を止めたことと,物流の混乱により発生した.被災地内で道路が復旧しても,燃料がないために復旧作業や支援物資の輸送が進まないという深刻な影響を生み,企業活動にも深刻な支障要因となった.今後の大規模災害時において,燃料供給は物流を支える重要要素として注視する必要が生じた.
電力,通信,水道等のライフラインについては,復旧すべき地域が広大であったこと,前提となる道路開通にある程度時間がかかったこと,さらに,津波の懸念のある地区では余震による津波警報・注意報が続いたことなどから,全国的な復旧支援体制が早期から構築されたものの,思うように作業が進まない状況もみられた.土木学会地震工学委員会の調査結果においても,阪神・淡路大震災に比べても電力等の復旧には時間がかかったことが示されている.
したがって,東日本大震災においても,供給主体側の事前の備えや全力を挙げた復旧努力は評価されるものの,物流インフラやライフラインの被害が企業の事業継続の支障要因になった例は数多く存在した.